研究内容

金属触媒・有機金属反応剤を活用した有機硫黄化合物の分子変換法の開発

有機硫黄化合物は入手・調製が容易であるだけでなく、複数の酸化状態が取れる非常にユニークな性質をもっています。多種多様な有機硫黄化合物の中で、私たちはスルホン化合物に着目し、分子変換の開発を行なっています。スルホニル基は強い電子求引性と脱離基としての特性を併せ持つ興味深い官能基でありながら、反応性の乏しい炭素-スルホニル結合を変換する手法は未だ限られています。そこで私たちは金属触媒・有機金属反応剤の開発やスルホニル基の独自の分子設計を行うことでα位官能基化と炭素-スルホニル結合活性化によるsp3炭素上の逐次的官能基化法の確立を目指しています。実際、これまでに様々なアリールメタン誘導体の迅速自在合成法の開発に成功しています(Angew. Chem. Int. Ed. 2014; J. Am. Chem. Soc. 2018; Nature Commun. 2019; Chem. Sci.. 2021)。今後さらにスルホンの特徴を活かした新しい分子合成戦略を提唱していきたいと考えています。

カルベン配位子を活用した安定金ナノ物質の創製

金属ナノ粒子やナノクラスターはバルク金属、金属錯体とも大きく異なる特異な物性・反応性を示すことが知られており、近年注目されているナノ物質の1つといえます。これまでにチオールやホスフィンを配位子とする多くの金属ナノ物質が報告されています。私たちのグループでは金属と強く結合できるN-ヘテロサイクリックカルベン(NHC)を配位子に用いることで安定な金ナノ物質の合成に取り組んでいます。例えば、NHC-金錯体の還元または配位子交換によって金ナノ粒子の合成が可能であることを見出しています(Angew. Chem. Int. Ed. 2017; J. Am. Chem. Soc. 2018)。最近ではNHC配位子の分子設計によって様々な金ナノクラスターの合成にも成功しています(Nature Chem. 2019; J. Am. Chem. Soc. 2019; Chem Sci. 2021.)。また合成した金属ナノ物質の機能を触媒や発光材料との応用研究を並行して進めています。

光を利用した分子結合の活性化と応用

近年光触媒や発光材料などに代表されるような「光」を基軸とする科学がめざましく発展しています。光は加熱では不可能な化学反応が進行したり、照射位置、時間を制御することで時空間的な分子の活性化が可能となります。私たちは光を活かした新しい分子変換反応の開拓に挑戦しています。さらに開発した技術を生命現象の解明に資する分子ツールとしての応用展開を目指し、生物学の研究グループと共同で研究を進めています。